耳の不自由な方にもコンサートを!劇場の鑑賞サポート
明日から6月!ここ数日初夏のように晴れ上がって気温も高く、梅雨であることを忘れてしまいそうです。
今月、5月12日には加藤恵利子さん(ソプラノ)、原田綾子さん(ピアノ)ご出演のランチタイムコンサートにて初めて、「ヒアリングループ」と「UDトーク」という機器を用いました。その様子をご報告いたします。
事の発端は、加藤恵利子さんからの「聴覚障がいの方へのサポート機器を導入して公演を行いたい」というご提案でした。
まず、「ヒアリングループ」とは“磁気ループ”などとも呼ばれるもので、ループ(輪っか)状の電線に音の信号を流すものです。専用の受信モードをもつ補聴器や人口内耳を付けている方がこの輪っかの中に入ると、音信号を受信することができます。
このループは長く伸ばすことも出来るので、広く囲うと大きな会議などでも利用できるそう。
下の画像はリハーサル時のもの。実際の公演では、より多い席数をループで囲みました。
そして「UDトーク」とは日本発のコミュニケーションアプリで、会話の音声を文字に起こすもの。
対応言語は150以上、リアルタイム翻訳もできる優れモノです。(関西弁翻訳なんかも!)
こちらは、リハーサル風景の写真。
人名をはじめ固有名詞はこのようにリアルタイムで修正するか、あらかじめ単語登録をすることで正しい変換が出来るようになります。
これら機器の使用と膨大な単語登録をはじめとする字幕編集、当日のセッティングまで、聴覚言語障害者情文化センター様には大変お世話になりました。
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これまでご来場されたお客様から「MCのお話が聞こえ辛かった」というお声は時々頂くことがありました。
しかし、恥ずかしながら私の勝手な先入観で、聴覚障がいの方が音楽を、コンサートを楽しみたいと思って
くださっているとは想像していなかったのです。
今回、事前リハーサルの時には実際に聴覚障がいの方2名にお越し頂き、機器が正しく作動しているか何度もチェックにお付き合い頂きました。
まず驚いたことは、御二人とも完璧に流暢な美しいアクセントでお話されること。つまり、初対面では、聴覚に障がいをお持ちだと知らされない限り、全く気が付きません。聴覚障がいとは、それくらい「見えない」障がいだということを実感しました。
御二人とも素晴らしい方で、色々な事を教えてくださいました。
生まれた時から聴こえない方と中途失聴の方とでは、かつて音楽や自分の声が聞こえていたか、そうでない
かの違いがあります。元々聴こえていた方はその時の音を思い出しながら、そして今回リハーサルに立ち会
ってくださった方は“自分なりの方法で”音楽を楽しんでいると教えてくださいました。
そういえば私事ですが、私にはずっと同居していた難聴の祖父がおり、(戦時中、爆撃音で聴力を完全に失
った)背後で黒電話が鳴り響いていても全く気が付かない程でしたが、ずっと詩吟を愉しんでいました。
家族間は筆談が出来ますが、ひとたび外へ出ると車のクラクションも聞こえないのです。それがずっ
と心配でした。
聴覚に障がいをもつ方の中には漢字の読み書きが困難な方も居られるそうです。なぜか。漢字には複数の読み方がありますが、例えば
公共(こうきょう)の場
公(おおやけ)の場
と、聞こえる我々にはどの読み方が合うかわかるものですが、文字を黙読するのみで、「音」としての情報源がなく、
公の場
と文字だけ見て「こうのば」 と思い込んでしまったとしても、他人と声で交わす会話がないため、それらの誤りを訂正してもらうことも、正しい読み方を耳にする機会もない。そうすると漢字の読み書き習得が大変難しくなるそうです。
(昨今のマスク生活も、口の動きが読み取れないことが大きな問題。)
ちなみに、前述のUDトークはスマートフォン用アプリもありますが、漢字にすべてふりがなが付くのも素晴らしい点でした。
そして一口に聴覚障がいといっても、聴きやすい音域・症状には個人差があるようです。
今回お会いした聴覚障がいの方は、以前こちらに書いた「ベートーヴェン、難聴の軌跡」のように、極端に高い音か低い音、そして振動を伴うような音が比較的聴こえやすいと仰っていました。
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入念なリハーサルを経て迎えた本番日。
開場中のアナウンスに始まりMCのお話、そして歌詞も文字投影。
たくさんの方のご協力のお陰で、無事開催することが出来ました。
最後は記念撮影。
右から、今回多大なるご協力を頂きました聴覚言語障害者情報文化センター(名身連聴言センター)山尾様、ソプラノ加藤恵利子様、宗次ホール代表・宗次徳二、そしてピアノ原田綾子様 です。
そして、今回の催しを中日新聞さんに取り上げて頂いたことで、
(5/31現在、こちらから一部読むことが出来ます)
この取組について三重や遠くは沖縄から、応援のメッセージを頂きました。
とても励みになりました、ありがとうございます!
初の試みでしたので反省点も多くありますが、まずはこのような素晴らしい機器があることをより多くの方に知って頂き、1人でも多くの方にコンサートを楽しんでもらえる環境づくりに今後も励みたいと思います。
改めましてご協力頂きました皆様、そしてご来場頂きました皆様に御礼申し上げます。
(ひろた)