ピアニスト イリヤ・イーティンさんに聞く ~音楽の大切さ~
去年公演が中止となったロシア人ピアニスト、イリヤ・イーティンさんの振替え公演が、4月24日(土)14:00~に予定されています。
「そのパワーと精密はさ、まさに神わざ」(インターナショナル・ピアノ・マガジン)
「彼の得意な作曲家は・・・バロック、古典派から近現代まで全てだった。(BBSテレビ)
などと評されるイーティンさんは現在武蔵野音楽大学の客員教授を務めておられることから在京中であり、今回振替え公演を開催する運びとなりました。
今日は、お忙しいイーティンさんに少しお時間を頂き、貴重なお話を伺うことができました!
これまでのピアニスト人生において、一番緊張したことは?
これまでの人生を振り返ると、一番ナーバスになった舞台は、モスクワ音楽院の入学実技試験でしたね!後にも先にも、あれほど緊張したことはありませんでした。
エカテリンブルグからモスクワに上京して、「周りはきっと自分より上手いんだろう・・・」と心配しながら上がった舞台では、自分の手や足の感覚もわからなくなる位で、どうやって終えたのか記憶もありません。
ピアノ科は20~25人ほどが入学枠だったかと思いますが、200人以上の志願者が来ていましたからね!
(↑モスクワ音楽院のボリショイ・ザール(大ホール))
その後イーティンさんは様々な国際コンクールで受賞を重ねていかれるわけですが、そんな中でも一番緊張したのがモスクワ音楽院の入試なのですね
はい、あの入試ほどの緊張は後にも先にもありませんでした。
最初の国際コンクールは米国で受けたのですが、当時ソ連から出国するだけでそれはそれは大変なことでした。ですからコンクールの結果がどうであれ、国外で弾く機会があるというだけで、自分にとっては大成功でした。
リーズ国際ピアノコンクール(1996年 第1位)でも同様でした。それまでイギリスに行ったこともありませんでしたから、英国スタイルの可愛らしい建物や街並み、絵本の中に迷い込んだかの様な景色に深く感動しました。
(↑英国 リーズの街並みと、お城)
コロナ禍で海外旅行はもとより、コンサートにも出掛けづらくなってしまいました。今後、新しいクラシック・ファンを創造するのに何が必要と思われますか?
そうですね・・・やはり、幼少期からの学校での教育が一番大切なのではないでしょうか。もちろん今でも義務教育の中に音楽の授業はありますが、つまらない授業が大半でしょう。もちろん、音楽を職業にする人は僅か一部でしょうが、幼少期から音楽に親しみ、芸術を享受する習慣が身に付けば、それは一生モノの財産だと思うのです。
私が子どもの頃にはインターネットもスマートフォンもありませんでしたが、今は物も情報も溢れている。子ども達は退屈することがありません。そんな中でクラシック音楽に子どもたちの関心を引くのは言うまでもなく大変難しいことです。
もちろん、テクノロジーのお陰で音楽に関連する情報を得ることも容易いですから、その恩恵はありますけれどね。
テクノロジーが進化した現代において、音楽の大切さは何だと思われますか?
音楽に限らず全ての芸術は、私達人間を、人間たらしめるものだと思っています。
古代から人は楽器を作って音を出し、壁に絵を描いてきました。私も自分自身に「なぜ音楽をしているのか?」と問うことが多々あります。食べ物を作るなど、直接生命に関わる活動とは違いますからね。でも、生命といわずとも心・そして脳には深く関わるものです。
どうして人間は本を読んだり、物語を創ったりするのでしょうか。物語に登場する人物は実在しませんが、
人は、文学や音楽等の芸術を通して、自分の人生だけでは経験し得ない他の人生を体験し、ひいては自分自身についても深く知ることが出来るのです。このような体験は脳への刺激となって、普段の生活では使っていない部分を活性化していると考えています。
アルベルト・アインシュタインの言葉に、
"I often think in music" 「私はよく音楽の中で考える」
というものがあります。
「音楽」という感覚的なものと、その逆に位置する「考える」ということ。
とても興味深いと思いませんか?私の好きな言葉です。
前述の「脳の普段使っていない部分」は、私達の直感や本能に訴えかけるところだと思っています。言葉では説明がつかない部分であり、自分自身の核のようなところに一番近いのではないでしょうか。
ロボットが何でもやってくれるようになった今、人間にしかできないことが芸術の創造です。
音楽は、それを聴いて経験しなければ生まれないであろう、強い感情を呼び起こすものです。きっとその力は、他のどの芸術よりも強い。
嵐のような激情、哀しさと悦びが混じり合ったような名も付けられない感情、そして暗い負の思い、等々日々の生活では感じることのないような振り幅の感情を味わうことができるわけです。
このような経験を多く持つことで私たちの人生は深みを増し、視野も拡がると信じています。
ありがとうございます、最後に、4/24の公演内容について、おしえてください。
パルティータ第6番とラフマニノフ編曲のヴァイオリンパルティータは、ホ短調とホ長調ということで、調性に統一感を持たせるために選びました。
バッハとラフマニノフという時代もスタイルも異なる2人の作曲家のプログラムですが、紐解いていくと、両者には繋がりが多くあります。
ラフマニノフの音楽はバッハ同様多声的であり対位法も多く用いられています。
ラフマニノフ編曲によるバッハ作品では「ラフマニノフの目を通してバッハを見る」ことが出来ます。
また、両者の作品にはモチーフの繋がりもあります。
パルティータには“ため息”の動機(G-G-#Fなど同じ音が2回打ち直された後、2度下降する音の動きで、ため息を表現)が出てきますが、ラフマニノフもバロック音楽から深く影響を受けていましたので、似たような音型を頻繁に用いています。
このような繋がりを発見してくことは本当におもしろいのです!
イーティンさん、お忙しい中貴重なお話をありがとうございました!また、ご協力頂きましたア・コルト音楽プロデュース 高橋様にもこの場をかりて御礼申し上げます。
4月24日(土)はバッハ、ラフマニノフのプログラム、また「音の絵」作品39 全曲という貴重な公演です!
皆様のご来場、お待ちしております。
(ひろた)
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