芸術家たちの逮捕歴(世界の法の日)
みなさまこんにちは。今日9月13日は『世界の法の日』だそうです!
歴代の作曲・音楽家たちもスキャンダルには事欠きませんが、実際に刑務所送りになった経歴のある強者(?)たちを、今日の記念日にちなんでご紹介しようと思います!
イーゴリ・ストラヴィンスキー:アメリカ合衆国国家 星条旗の不適切な編曲により逮捕?
1944年1月、自作曲のお披露目でボストン交響楽団を指揮したストラヴィンスキー。自作曲の前には作曲家自身の編曲による米国国歌が演奏されました。アメリカのプロスポーツリーグでは試合前に国家が演奏されますが、そんな感じで挿入が決まったようです。
↓ こちらが、「属7(ドミナント7th)和音の使い方に問題がある」と問題視されたストラヴィンスキーの編曲によるアメリカ国家。
今聴くと、それほどアヴァン・ギャルドな編曲には感じませんよね。。。?
しかしどの国にとっても国家は特別なもの。特にこの時期戦争の真っ只中にあったアメリカにとって、ストラヴィンスキーの風変りな編曲は「みんなで歌える」「軍隊が行進する」為の国歌とは違う!ということで問題になったのでした。
ストラヴィンスキーの主張としては、「ピューリタン革命の時代に遡り(ボストン交響楽団の本拠地、ボストン市はイギリスより移り住んできた清教徒ピューリタンの手によってつくられた町なのです。)、賛美歌の要素を取り入れることで、国歌の宗教的な雰囲気を強調したかったんだ」とのこと。
余談ですが・・・《ストラヴィンスキーはこの件で逮捕された》という説もネット上で出回っているようですが、実際には逮捕まではされなかったようです。
どうも、その間違った情報が出回った理由は、本ページのトップに掲載した人相悪すぎるこちらの写真↓
が逮捕直後の写真のように見えたことから、間違った噂が広まったとのこと。ボストングローブ紙 によると、この人相悪い写真は、なんとVISA写真だったようです!
この写真からは、この数年前に最初の妻、娘、そして母を次々と失ったストラヴィンスキーの哀しみが透けてみえるようにも感じますが、実はこのVISA写真撮影の1週間前、ストラヴィンスキーは再婚を果たしたばかりでした。創作活動も軌道に乗り、プライベートも充実している、実は最も幸せな時期にあったのかもしれません。
J.S.バッハ:上司のせいで刑務所送りとなる
実は大バッハも一度、4週間ほど刑務所に入れられていたようです。これは、上司からの不当な扱いに異議を申立てたことに対しての措置でした。しかし、さすがバッハ。塀の中では鍵盤楽器の為の練習曲、「オルガン作品集」を手掛けました。
グレン・グールド:浮浪者疑惑
異端のピアニスト、グールドが演奏旅行で米国・フロリダ州を訪れていた時のこと。グールドの奇行のひとつとして、夏でも帽子・手袋・冬用コートを着用していたことがありますが、常夏のフロリダの公園ベンチにてコンサート前のリラックスタイムを過ごしていると、浮浪者と間違えられ逮捕。
その後世界的なピアニストだったということが判明し、釈放されました。
エリック・サティ:文化的アナーキスト?
ストラヴィンスキーの「春の祭典」同様、初演後に騒動が起こったサティとジャン・コクトーによるバレエ「パレード」。この騒ぎによりサティは8日間刑務所に入れられます。
ちなみにサティは葉書を送って音楽評論家たちを口汚く罵ることも多く、その文面が(葉書ゆえ)配達人などの目にも触れることから、名誉棄損だと訴えられたこともありました。(そして評論家が勝訴したようです!)
エセル・スマイス(スミス):作曲家、そして先駆的なフェミニスト
セシル・シャミナード、エイミー・ビーチ等と並ぶ女性作曲家のパイオニア。ドヴォルザーク、グリーグ、チャイコフスキー、クララ・シューマン、ブラームス・・・と名だたる音楽家達と親交があった彼女ですが、サフラジェット(女性解放運動の闘士)として活動をしていたことから2か月に渡りロンドンのホロウェイ監獄に収容されます。(英国のサフラジェットは器物破損や放火、爆弾テロなどの過激な行動で有名。)イギリスの指揮者、サー・トーマス・ビーチャムが刑務所を訪れた時には、収容されている仲間たちの合唱を、歯ブラシで指揮していたとか!
ベートーヴェン:酔っ払いの浮浪者疑惑??
グールドに続き、ベートーヴェンも浮浪者疑惑で逮捕されたことがありました。「身綺麗にする事や洗濯は、やりたい奴だけがやればいい。」という考えだったベートーヴェンは、1820年のある日、いつもの薄汚い恰好で散歩をし、道に迷い、助けを求めて他家の窓を覗いているところを警察に見つかり、浮浪者と勘違いされて逮捕されます。
しかし刑務所に入れられたベートーヴェンは、ここでも不屈の精神を発揮。保安官に懇々と文句を言い続けます。これにはさすがの保安官もギブアップ。警察の本部長に手紙を書いたといいます。
「本部長殿、先日逮捕した男なのですが、私達を全く休ませてくれません。全く、です。そして、俺はベートーヴェンなんだと、叫び続けているのです。助けてください。」
個性溢れる芸術家たちが逮捕された話は、今読むと微笑ましく感じるくらいですが、実際のところ、ヨレヨレの服のベートーヴェンに家の窓を覗きこまれたら、私ならきっと恐怖で通報すると思います。(笑)
今月もベートーヴェンの作品を取り上げたコンサートが多数あります!
どうぞ、お越しください。