「魅惑のエクスペリメント」シリーズⅠ 諸戸詩乃 ヴァレンタイン ピアノ・リサイタル

～クララ・シューマンとブラームス ロマン派ピアニズムに秘められた愛～
ブラームスよりクララへ。
“高い山から、深い谷から、あなたに千たびものご挨拶を！”
『クララ・シューマン ヨハネス・ブラームス 友情の書簡』みすず書房 より

　ウィーンでピアノを学んで20年、古典派、ロマン派の音楽について、色々な先生方から貴重な薫陶を受けてきました。
　なかでもモーツァルトは深く学んだ作曲家の一人で、今回のリサイタルの幕開けとして「ファンタジー」（K.397）と「ソナタ 」（K.311）を２曲連続して演奏する形でお届けします。モーツァルトには、ハ短調ファンタジー（K.475）とハ短調ソナタ（K.457）を繋げて演奏するというスタイルがあり、今回の２曲もその可能性が
高いと言われています。
　クララ・シューマンとブラームスの音楽については、時代考証演奏法の大家クライブ・ブラウン教授のもとで学ぶことができ、
現在の私のロマン派ピアノ演奏の基礎となっています。クララとブラームスは、ブラームスがシューマンのもとを訪問した1853年に知り合い、その交友は一生涯続きました。二人の間には秘められた愛があったと言われています。
　今回取り上げるクララ作曲の「３つのロマンス 」（Op.21） はブラームスに贈られたもので、メランコリックでありながらどこか
情熱的で迸り出るような曲調をもっています。クララとブラームスが知り合った頃に作曲され、ブラームスはまだ二十歳でした。
　ブラームス作曲の「ピアノのための６つの小品」（Op.118） は６曲からなる小品集。そのうち第２曲「間奏曲」はクララに捧げられたものです。ゆったりとした起伏のなかにやさしい情感の漂う美しい曲で、ブラームス晩年の傑作といっていいでしょう。クララはすでに70歳を超えていました。
　クララの即興曲「ウィーンの想い出」（Op.9） は、彼女がウィーンでリサイタルをした時の思い出を回想しているかのような宮廷風で華やかな曲想で、クララらしいピアニズムに溢れた曲です。
　クララとブラームスが、それぞれの音楽に託した想いを少しでも表現できたら、と思っております。

諸戸詩乃（ピアノ）Shino Moroto, Piano
　愛知県生まれ。10歳のときにウィーンへ移住。ウィーン国立音大ピアノ準備科を経て、15歳でウィーン国立音大ピアノ演奏科に入学。エリザベート・ドヴォラック＝ヴァイスハール、故ハンス・ライグラフ、ポール・ヒルに師事。また、マスタークラス等において、フィリップ・アントルモンや遠山慶子にも教えを受けた。2018年3月同大学院を卒業。さらに19世紀時代考証演奏法のクライブ・ブラウン博士のもとで薫陶を受ける。
　演奏活動では、ウィーン・フィガロザールでのソロリサイタルを皮切りに、ベーゼンドルファー社やシューベルト連盟主催のコンサートに多数出演。またイタリアにおいても、ボローニャ歌劇場管弦楽団首席メンバーと各地でたびたび共演し、好評を博した。わが国においては、2005年、ＮＨＫのテレビ番組「スーパーピアノレッスン」にシリーズ最年少の生徒役で出演、そのモーツァルト演奏は講師のアントルモンから「きわめて洗練されたモーツァルト」との評価を受けた。また、日本・オーストリア国交150周年の2019年には、ウィーナ・ノイシュタットでの記念コンサートに、日本人ピアニストの代表として出演し、多くの聴衆に喝采を浴びた。その他浜離宮朝日ホール、電気文化会館ザ・コンサートホール、愛知県芸術劇場コンサートホール等に出演し、好評を博した。これまでに、カメラータ・トウキョウから、「モーツァルトピアノソナタ集」、「シューベルト即興曲集作品90＆楽興の時」、「モーツァルト変奏曲集－トルコ行進曲付き」（レコード芸術誌準特選盤）の3枚のアルバムをリリースしている。
　日本アーティスト所属。