1. トップ
  2. 宗次ホール オフィシャルブログ
  3. 終了公演レポート
  4. 1820年製のフォルテピアノ

1820年製のフォルテピアノ



18日の川口成彦さんのリサイタルで使用したこのピアノ。1820年、オーストリアのインスブルックの工房で作られた200歳の楽器を、できる限り当時と同じ状態で修復したものです。ハンマーは現代のピアノよりずっと小さくフェルトではなく革が巻かれています。弦も現代の鋼鉄のピアノ線ではなく、軟鉄が使用されています。現代の楽器のようにフレームに金属は使われておらず木製のボディで弦の張力を受け止めているため、鋼鉄を使ってしまうとその強い張力に負けてしまうのです。

ペダルは5本あって、現代のピアノと同じ「ダンパー」(弦を抑えるフェルトを開放して音を響かせ伸ばす)、「ウナ・コルダ」(鍵盤が横にずれてハンマーが弦に当たる位置を変えて音色を変える)の2つのほか、独特の装備として2種類の「モデレーター」(フェルトをハンマーと弦の間に挟み込んで音色を変える)と、「ファゴット」(低音の弦に紙を付着させて、ビリビリした音を発生させる)が加えられています。19世紀前半の頃のピアノにはこのような遊び心を持った音色を変化させる仕掛けがなされていましたが、例えばベートーヴェンの弟子チェルニーを始め、時代の過渡期にあった音楽家たちはこういった仕掛けを「子供の玩具みたいなもの」と否定的に捉えるようになっていきます。コンサートホールの発展とともに、音量の豊かさ強弱の幅の大きさを備えた現代のピアノへと開発が進むにつれて、そうした「おまけ」は廃れていってしまったのですが、ベートーヴェン、シューベルト、そして若き日のショパンの作品を演奏するときには、きっと即興的にこのようなペダルも使用されていたはずで、18日の川口さんの演奏でも現代のピアノが失ってしまった音色を聴かせていました。



関連記事