【アーティスト・インタビュー】1/27 ケヴィン・ケナー
♪宗次ホールのコンサートがもっと面白くなる読み物 (アーティスト・インタビュー)♪
自分で考え、生み出したものでなければ本物ではない
(本人インタビューより)
1990年ショパンコンクール最高位、そしてチャイコフスキー国際コンクール銅賞という快挙を成し遂げて以来、
世界中で活躍を続けるケヴィン・ケナー氏。
オール・ショパン・プログラムで宗次ホール初登場!!
判断力・精神性・思慮深さ。
全てにおいて素晴らしい芸術家であることがその演奏から滲み出ていた。
ショパンのバラードで、これ程までに作品の真理への到達を感じたことはない
(インディペンデント紙/英国)
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ケヴィン・ケナーについて (文:廣田政子)
About Kevin Kenner, Pianist
身長は185センチほど、やせ型でひょろっとした印象。
日本にいる彼は当然自分くらいの背丈の人と会うことは稀なので、猫背になって顔を覗きこむように話をします。
片手には、いつも読みかけの分厚い本の入った、ヨレて持ち手が破れそうなトートバック。
ジャケットを肩に引っ掛けて歩く後ろ姿は、案山子を彷彿とさせます。
さまざまな音楽家が居ますが、彼ほど気取らない人はなかなか他に思い当たりません。
多くのアーティストはもっとビジネス感覚があって自分で自身を売り込み、より良い条件を引きだそうと交渉します。
例えば食事の場所一つとっても、ケナーは高級レストランよりも「お好み焼き」。
本人曰く「皆が集まってワイワイ楽しく食事をする、あたたかい家庭的な雰囲気が好き」なんだそう。
そういえば、ある時「●●氏は、自分で交渉して、僕より広い部屋を取ってもらっているらしい。
そういうことした方が良いんだよね。でも僕にはそういう才能がまったくない」と嘆いていました。
ですが、私には才能がないというよりも彼自身あまりそういった事柄に興味がないだけのように見えます。
彼の興味の大半は、芸術を深めること、分厚い本を読んで知識を得ること。
彼にとっては、高級鞄だろうが、ヨレたトートバックだろうがどちらでもよく、それに入った分厚い本に詰まった中身が重要なのでしょう。
私達と同じように、家族のことで悩んだり、大きな喜びを感じたり、友達の心配をしたり、恋に落ちたり、失恋したり。
自然体で人間くさい人です。
彼の演奏を聴いていると、ショパンもベートーヴェンも、我々と同じように喜び、足掻き、生きることの葛藤を感じていた、一人の生身の人間だったということを感じます。
“良い人なので聴きに来てあげて下さい”なんていうつもりはありません、こういう芸術家は実に貴重だと思っています。
Q 演奏家としてだけでなく、教育者としても素晴らしいケヴィンさん。
どういう教育を受けられたのでしょうか?
A 僕の母はテキサスの貧しい地方に生まれ、15歳で結婚して田舎で馬を育てていたような人でした。
そんな環境に居た人ですから、自分の子供には良い教育を授けたいと思っていたみたいです。
5歳の時にレッスンを始め、“将来はピアノを弾く人になる!”と決めていました。
消防士や、ガソリンスタンドの店員にも憧れていたけどね…(笑)
ピーボディ音楽院では有名なレオン・フライシャー先生に、その後ハノーファー音楽演劇大学のケマーリング先生にも師事されています。
フライシャー先生は音楽に対して確固とした美学を持っている方なので、レッスンは毎回緊張しました!
けれど、その美学を生徒に押し付けることはありませんでした。
演奏のあり方を先生が示すのではなく「あなたは自分でどう思って弾いていますか」と聞きながら、生徒の中から引きだしていくのです。
それまでは、先生の弾いた「見本」をそのままコピーするようなレッスンでしたから、とても驚きました。
先生との間には、理想とする演奏について、ギリシャの哲学者ソクラテスのような問答が繰り返されるんです。
先生はたとえ話も上手でわかりやすく、文学や美術の知識など幅広い視野を与えて下さいました。
たとえ話の上手さ…はケヴィンさんのレッスンにもそのまま活かされています。
以前彼が音大生にレッスンを行っていた時のこと。
若くて指もよく回る音大生は、とある作品に出てきた、速いスピードで上行し、下降する、というメロディーを超快速で駆け巡るように弾いていたのですが、ケヴィンさんは、頂上に達した時少しためて、時間をかけてはどうか、と提案されました。
「サーカスの空中ブランコでも、一番高いところに到達した時、一瞬時間が止まったようにふわっと時間が引き伸ばされるでしょう」と。
そして自分のカバンの中にあったイヤフォンを取り出してくるんくるんと回し、その空中の「時間の溜め」を視覚的に生徒さんに説明されていました。
「この音を長めにとって。」等の教え方をする先生が多い中、別のものをイメージさせて、その生徒が想像するものの中で表現させる手腕は、流石だと思いました。
フライシャー先生が理想を説くソクラテスだとすると、ケマーリング先生は実践的なあり方を教えるアリストテレスのようでした。
フライシャー先生のもとでは音楽に対するファンタジーを育ててもらいましたが、ケマーリング先生は大きくなり過ぎたそのファンタジーを矯正してくださった、と言えるかもしれません。
自分の感情の赴くままに演奏することが大切だと思っていましたから、ケマーリング先生との最初のレッスンでメトロノームが登場したときは、ショックをうけました(笑)
心に残る恩師の言葉として、フライシャー先生の「間違えることは罪ではない」というものを挙げていらっしゃいますね。
先生は、むしろ間違えることは大切だ、とも仰いました。
間違いから得ることは非常に大きい。
境界線ギリギリのところで挑戦せずして、己の限界を知ることはできない。という師の考えあっての言葉です。
何よりも、間違えてはいけないと思い込んでいた自分の心が解放されました。
ケナーさんがショパン国際ピアノコンクールを受けた時には、フライシャー先生が審査員を務めていらした。
アドヴァイスを受けに行ったら、“私の教えたことは、全て忘れなさい”と仰いました。
先生の言葉は全てを記録し、聖書のように大切にしていたので、とてもショックでした…
でもそれは『自分で考え、生み出したものでなければ本物ではない』という意味だったのです。
僕自身、例えばラジオから流れてくる演奏を聴いて、今は“これは自分の演奏だ!”とすぐにわかる。
けれど以前は分からなかった。
気付けるようになるまで、大分時間がかかりました。
音楽とは教えられるものではないのです。
優れた音楽家になることと、商品価値を高めることはまったく別のもの。コンクールやコンサートの契約といった結果などは二の次であり、時間がかかっても「自分は何者なのか、音楽家として何をしたいのか」を見つけることこそが重要なのです。
私も特定の伝統や自分の考え方を生徒に押し付けるようなことはしません。
あなたにとって、ピアノとは?
自分の心のうちを表現する「声」だと思います。
ピアノはヴァイオリンなどのような楽器と違って、音を持続できずに減衰してしまうのが欠点だといわれてきました。
しかし私は、その減衰にこそ人間らしさや魅力を感じるのです。
美しい和音が自然にだんだんと消えて「無」になる瞬間にはノスタルジーをおぼえますし、どれほど美しいものであってもいずれは消えるのだから、一瞬一瞬を大事にしなくてはいけないことにも気づかされるのです。
今回はオールショパンプログラム。
ショパンコンクール優勝以来演奏する機会も多くあったと思います。
ショパンの音楽はかけがえのない存在です。
スケルツォとバラードはショパンの作品の中でもスケールが大きく、ロマンティックでドラマティックな内容を備えているので、マズルカ、ノクターンなどのサロン風小品と組み合わせてプログラムを考えています。
曲に対するアプローチも変化してきました。
若い頃よりも共感できる部分が増えたと感じています。
恐らくそれは私が50歳を過ぎたことと関係があるのでしょうし、さらに先には新しい出会いがあるのだと思うと、音楽の奥深さを感じずにはいられません。
自分が成長するに従って作品からの様々なメッセージを受け取る能力が備わるのでしょうし、作品もたくさんのことを私に語りかけてくれるのです。
いくら弾き続けても「自分はこれを理解できた」などと言えません。
だからこそ音楽の奥深さに圧倒されながらピアノを弾き続けていられるのでしょうね。
記憶に残る中で
最も繊細で美しいショパン解釈
指揮者
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
【参照】
“Rewards of the Journey”: SCORE MAGAZINE
“月刊ショパン”: 2015年10月号インタビュー
“ヤマハwebピアニスト・ラウンジ”:2017年2月掲載分
“ムジカノーヴァ”:2017年7月号
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ケヴィン・ケナー (ピアノ)
Kevin Kenner, Piano
1963年アメリカ、カリフォルニア州生まれ。
1990年ショパン国際ピアノコンクール(ワルシャワ)最高位(同時に聴衆賞、ポロネーズ賞受賞)、国際テレンス・ジャッド賞(ロンドン)、チャイコフスキー国際コンクール(モスクワ)銅賞(同時にロシア作品最優秀演奏賞受賞)。
それに先立つ1988年にはジーナ・バッカウアー国際ピアノコンクール(ソルトレイクシティ)や1989年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール(フォートワース)でも輝かしい成績を残した。
ソリストとして、ハレ管弦楽団、BBC交響楽団、ベルリン交響楽団、ワルシャワ・フィルハーモニー、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団等の世界的に著名なオーケストラと共演、録音も数多く行っており、ショパン、ラヴェル、シューマン、ベートーヴェン、ピアソラと多岐に渡る。
2011年以降、ヴァイオリニスト チョン・キョンファからの熱烈なオファーを受け彼女の10年ぶりとなる活動始動に伴いデュオパートナーとして世界ツアーに参加。
英国王立音楽大学教授を経て、2015年より米国マイアミ大学フロスト音楽校教授。
近年では、第17回ショパン国際ピアノコンクールに参加したチョ・ソンジンからの依頼によりコンクール直前に集中レッスンを行い、見事優勝に導いたことで、ケナーの教育者としての手腕が改めて認められた。
ケヴィン・ケナー ピアノリサイタル
●オール・ショパン・プログラム●
ポロネーズ 第5番 嬰ヘ短調 Op.44
ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58
ノクターン 第20番 嬰ハ短調 遺作
スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 Op.39
3つのマズルカ Op.63
ポロネーズ 第6番「英雄」変イ長調 Op.53
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
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1月27日(土)18:00 開演(17:30開場)
一般¥4,500/学生¥2,700
全指定席
[チャリティーシート¥4,950/ハーフ60 ¥2,700]
ご予約は宗次ホールチケットセンターへ
☎052-265-1718(10:00~16:00または18:00)
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☏ 052-265-1718
(営業時間 10:00~16:00 夜公演が開催される日はコンサート終了時まで )
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