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おすすめ公演♬ 7/9 マルティン・カシーク ピアノリサイタル -哀しみの小径を通り抜けてー


彼の演奏からは、作品を生み出した作曲家の

その人生にまで触れることができそうな気がする…

(ワシントン・ポスト紙)





名門チェコ・フィルが来日ツアーの共演者に指名した実力派ピアニスト、マルティン・カシーク。
つい先日宗次ホールに来演したプラハ・グァルネリ・トリオのイヴァン・クランスキーに師事し、
若いころからチェコを代表するピアニストとして、
今もなおチェコにおいて高い人気を誇るピアニストです。




2013年の宗次ホール公演では派手な効果を狙ったハッタリとは無縁の、
職人的な演奏で多くのお客様を虜にしました。
「期待以上です、こんな人どうやって見つけてきたんですか?」
なんていう声まで挙がったほど。

今回はチェコの音楽誌「Czech Music」に掲載された、
インタビュー記事をご紹介いたします。

文責:宗次ホール企画担当 廣田 政子(ひろた まさこ)








マルティン・カシーク (ピアノ)
Martin Kasik, Piano
 

1976年生まれ。
4歳でピアノを始め、
チェコ・グァルネリ・トリオのメンバーとして活躍するイヴァン・クランスキー氏らに師事。
またラザール・ベルマン、パウル・バドゥラ=スコダらにも指導を受けている。
現在チェコを代表するピアニストの1人。
1998年、22歳で「プラハの春国際コンクール」第1位、一躍注目を集めた。
1999年ニューヨークで開かれた「ヤング・アーティスツ国際コンクール」でも優勝し、
海外での活動の足場を築く。
その後、シカゴ・フィル、ロッテルダム・フィルに招請され、
また自国のチェコ・フィルの海外公演ツアーのソリストとして抜擢されるなど、
世界の一流のオーケストラと共演することで、欧米でも知られる存在となった。
2004/05シーズンのチェコ・フィルの日本ツアーでも共演者として選ばれ、
サントリーホールで演奏。
またCDも高く評価されており、
例えば、シューマンとラフマニノフを演奏したライブ盤ではレペトワール誌(フランス)で、
「輝かしい将来を約束されたピアニスト」と絶賛されている。
チェロのイルジー・バールタやウィハン弦楽四重奏団との共演で録音も行うなど、
室内楽でも活躍。
これらを含む12枚のCDをチェコの名門レーベル「スプラフォン」等からリリース。






■数々のコンクールで受賞をされていますが、特に思い出深いものは、どれですか?


どのコンクールも、ものすごい量のアドレナリンを放出する緊張の舞台ですからね(笑)、
全てよく覚えています。
強いて言うならば、
1位を頂いた1998年の「プラハの春国際コンクール」でしょうか。
やはり、自分の“ホーム”である地元で、
熱い聴衆の期待を一手に引きうけながらの戦いというのは、
大変なプレッシャーがかかりました。




■その頃は僅か22歳でしたね?

プラハ音楽アカデミーの1年生で、イヴァン・クランスキー教授に師事し始めた頃です。
その前に自分が慣れ親しんでいたものとは異なる演奏法を学び始めた時期で、
大変苦労していました。
なのでこのコンクールで良い成績を収めることができ、
良いスタートを切ることが出来たのは、本当に嬉しかったです。




■演奏会に出演されるとき、演奏曲目はご自分で決められるのですか?


リサイタルの時は、自分で決めさせてもらえることが大半です。
その場合、できるだけチェコ出身の作曲家による作品を含むように心がけています。
特に、ヤナーチェク(1854-1928)、マルティヌー(1890-1959)、
スラヴィツキー(1910-1999)、フィシェル(1935-1999)といった
20世紀の作曲家たちを取り上げるようにしています。
オーケストラとの共演となるとシーズン・スケジュールや
その時々の音楽祭などを通して予めプログラムを考慮しなければならないので、
大体主催者側が演目を考えて提案してくれますね。





■チェコ・フィルハーモニー管弦楽団へ2002年にデビューし、
オーケストラと一緒に日本ツアー(小林研一郎・指揮)、
そして台湾ツアー(ズデニェク・マーカル指揮)へ周られました。
チェコ・フィルとの共演の経験は、いかがでしたか?



チェコ・フィルとの共演は、全ての音楽家の夢、といっても良いでしょう。
彼らと共演できる全ての公演は自分にとっても素晴らしい機会だと思っていますので、
一つ一つの公演に全てをかけて臨んできました。
マーカルの指揮ではドヴォルザークのピアノ協奏曲を演奏する機会に恵まれました。
あれほどに確信をもって音楽を創ることが出来、
本番でも豊かなインスピレーションをたくさんもらえることは滅多にありません。
大変貴重な経験でした。

 


■ヤナーチェクの歌曲集「消えた男の日記」など、大変興味深い録音もされていますね。
普段の演奏活動はソロがほとんどだと思いますが、
カシークさんにとっての「室内楽」とは?


私にとって室内楽とは、他の形態とは全く異なり、正に「リフレッシュ」といった感覚です。
素晴らしい音楽家達と共演することは私にとっての喜びで、
今までにもウィハン弦楽四重奏団、パノハ弦楽四重奏団、
シュターミッツ四重奏団、アフラートゥス・クインテット…といった素晴らしいグループや
ヴァイオリニスト、イヴァン・ジェナティーや
チェリスト、イジー・バルタとも共演をする機会に恵まれました。
共に音楽を創り上げる、というのは言葉では説明し尽くせない程、素晴らしい経験です。




■特に気に入っている作品・または作曲家を挙げるとしたら?


それはとても難しい質問ですね。
一人一人の作曲家それぞれに素晴らしい点、そして個性がありますから、甲乙つけがたい…。
ですがどうしても一人選ばなければならないとすれば、ヤナーチェクでしょう。
この作曲家が持ち合わせていた人の深層心理や心理学へも通ずる知識、
そして血が滲む程までにその人生の核へ深く迫るアプローチには、
特筆すべきものがあります。
ヤナーチェク自身が、自己の内なる声に耳を傾けること、
“流れる血の中まで、深く人生を追究する”生き方をした人物です。



■現代音楽については、どう思いますか?


他の時代の作品に対してと、敢えて区別はしていません。
違いがあるとすれば、例えばロマン派の作品であれば、
“良い演奏か悪い演奏か”といった観点で判断できますが、
現代音楽に関しては、“好きか嫌いか”といった観点でしか判断できません。
まだそこまで世間で演奏の回数が踏まれていないような作品であれば、
良し悪しを客観的に判断できるまでの材料がないからです。
今、私自身まだ勉強中の現代作品がありますからね、
研究を続けていけば、更に理解できるようになっていくと確信しています。
それまでは…「食わず嫌い」で非難するようなことはしたくないです。



■今まで誰も過去に弾いていなかった曲を初演することは、いかがですか?
特にワクワクしますか?
それとも重い責任を感じますか?


名誉と重い責任、両方です。
解釈の方法は既出の作品に比べて断然自由といえます。
ですがそれと同時に、
自分の解釈が最も理想に近いものでならなければならない、という点においては、
重い責任があります。



■コンサート最後のアンコールは、いつもどうやって選曲されているのですか?


通常、アンコールは事前に決めていません。
その時の自分の気分で決めています。
最近はチェコの作曲家で今私の自宅にあるピアノの前の持主、
クレメント・スラヴィツキーの「トッカータ」が気に入っていて、
よくアンコールで取り上げます。
華麗なショー・ピースであると同時に、非常に感情表現豊かな作品です。



【参照】
“Beyond the Reach of Ordinary Mortals Interview with the pianist Martin Kasik”: Czech Music 



――――――――――――――――――――――――――――――





今回の演奏会のプログラムを決めるにあたり、
カシークさんと何度か意見交換をしました。
そして決まったのが
このヤナーチェクとムソルグスキーという二人の個性的な作曲家の代表作を並べるというものです。
前半はヤナーチェク最後のピアノ曲集であり、娘に先立たれた深い哀しみなど、
当時の作曲者の複雑な心境が映し出された「霧の中で」と「草陰の小径」。
そして後半には、
ムソルグスキーが若死にした友人の画家の遺作展から着想を得て作曲した大作「展覧会の絵」。
いずれも大切な人を失った作曲家が、悲嘆とともにそれを祈りへと昇華させた作品であり、
さらにヤナーチェクは自然の中を、
ムソルグスキーは展覧会場を、
場所は違えど二人とも「歩き回る」ことでその悲しみを音楽へと昇華させたのです。

例えば後半の「展覧会の絵」は確かに「派手」な作品ですが、
上記のようなことを踏まえて演奏する(そしてそれを聴く)ことで、
名曲の知られざる奥の扉を開くことが出来るのではないでしょうか。
カシークさんはプログラムの意図について何もおっしゃらなかったのですが、
その意味を感じ取った私はこのプログラムを見ただけで深い感動を覚えました。
沈思黙考し、音楽の上でも外面的な効果よりも内なる作曲家の声を表現する・・・
それこそが彼の最大の魅力です。
さらにカシークさんには脱力から生まれる硬軟自在なタッチ、
そしてスラブ独特の舞曲のリズム感覚が備わっています。
冒頭のワシントン・ポスト紙の言葉の通り、
作曲家たちからのメッセージに、カシークさんの案内で、ともに耳を傾けてみませんか。
もっと聴かれてしかるべき素晴らしいピアニストがここに居ます。
          
(宗次ホール 企画担当:西野裕之)







マルティン・カシーク ピアノリサイタル

7月9日(日)
17:30 開演(17:00開場)
一般¥4,000/学生¥2,400 
全指定席
[チャリティーシート¥4,400/ハーフ60 ¥2,400]
ご予約は宗次ホールチケットセンターへ

☎052-265-1718(毎日10:00~18:00)




マルティン・カシーク(表)



マルティン・カシーク(裏)


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