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ピアニスト木川貴幸さんに聞く「現代音楽」の魅力


2月26日のスイーツタイムコンサートは
ピアニスト木川貴幸さんが、宗次ホールに初登場します。

バレエ団写真

ニューヨークに渡って23年。
日本ではほとんど知られていませんが、ニューヨークではTaka Kigawaとして
現代音楽を得意とするピアニストとして、活躍しています。



「現代音楽」と聞くと構えてしまいがちですが、そんな先入観をほぐしてくださるような
現代音楽ならではの魅力を語ってくださいました。
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木川さんは、その活動歴から、日本よりむしろ“Taka Kigawa”として
ニューヨークで知られるアーティストですね。ニューヨークに渡って何年になりますか?

1992年にジュリアード音楽院に入学するために渡米しました。

2年間の修士課程を終えたら帰国する予定でしたが、ジュリアードで出会った先生方等からの勧めもあり、卒業後もしばらく滞在することにしました。そうしているうちに、音楽活動上の機会が増えて行き、今年で23年目です。


渡米のきっかけは何ですか?

ニューヨークに来るきっかけは、全くの偶然でした。

東京学芸大学で学んでいた時に、お世話になっていた方から、「アメリカから著名なピアノの先生が東京でマスタークラスを行うが、欠員が出たのでそこで弾いてみないか。」というお話をいただいたのです。その日はちょうど学校が休みだったこともあり、勉強がてら行ってみました。マスタークラスはとても勉強になったのですが、その先生から「ジュリアード音楽院でもっと勉強してみないか」と聞かれたのです。実はジュリアード音楽院のことは音楽の有名校だということは知っていましたが、それまで自分からそこで勉強してみようとは思ったことはありませんでした。いろいろな方と相談した結果、オーディションを受けることにし、入学することができました。

それ以来、活動の拠点はニューヨークになり、現在は様々な場所で主にソロリサイタルを中心に活動しています。ニューヨークはとても多様な芸術家や音楽家がいるので、クラシック音楽だけでなく、実験音楽と呼ばれるものや、サウンド・インスタレーションと呼ばれるものでのコラボレーションをすることもかなりあります。アンサンブルも多いです。
ライヴ バレエ団と


ニューヨークの魅力や、休日の楽しみはありますか?

世界中の国々からいろんな生業のいろいろな人たちが来て生活しているので、出会ってちょっと話をするだけでも、とてもよい刺激になります。多様なジャンルのコンサートが毎日数えきれないほど行われていますし、美術館やギャラリーも行ききれないほどイベントを行っているので、芸術好きの人間には本当に魅力的な街だと思います。食べ物は世界中の料理がマンハッタンで食べられます。僕もこれまでに日本では食べたことが無いようなものをかなり頂きました。
カフェ リンカーンセンター

休日の楽しみ方というのは難しい質問ですね。音楽家に休みはないとよく言われます。ピアノを弾くことが仕事であり、それ自体が趣味のようなものですから。練習をしていないときに一番リラックスできるのは、妻といろいろな会話をしたり、散歩に出かけたりするときです。彼女は俳句を生業としています。ですから話をしていても、とてもよいインスピレーションを受けることがあります。同じくらい楽しいのはなんといっても友人達と一緒に時間を過ごすことです。


では今回のプログラムについてお聞かせください。メインはショパンの前奏曲集ですね。

ショパンをメインにしたのは
やはりショパンの楽曲は最もピアニスティックな曲だと思うからです。

彼はピアノ音楽に計り知れないほどの貢献をしました。
どんなピアニストでも、ショパンを避けて通ることはできないでしょう。

その中でも最高傑作だと思うのが、「24の前奏曲」です。
24の短い曲ばかりの曲集ですが、この中にはショパンの全てがあるように思います。
そして、「簡にして要」というか、無駄なものが全くないですね。そして、この曲集は19世紀の前半に作曲されたのですが、とても進取的な曲集だと思います。
そういうところが、今回一緒に弾くドビュッシー、ブーレーズ、そして藤倉大の楽曲にとても近いと思っています。ドビュッシーが一番尊敬していた作曲家達はショパンとバッハ、そしてブーレーズが尊敬するのがドビュッシーやバッハです。
個人的に、ブーレーズが「ショパンの前奏曲集はとても重要な作品」と言ったのを聞いたことがあります。

なお、ショパンが最も尊敬していた作曲家はバッハです。
ここがこのプログラムの秘密のポイントです!


すべてつながっているんですね!今回は現代の作曲家、藤倉大氏の作品もあります。藤倉さんといえば、名古屋フィルハーモニー管弦楽団のレジデント・コンポーザーとして、名古屋でも人気が出始めています。「現代作曲家」というと構えてしまいがちですが、ユニークでポップ、聴きやすい作品も作曲していますね。藤倉さんとの出会いは?

藤倉大 藤倉 大

もう随分前になりますが、ブーレーズと話していた時に、何気なく「日本の作曲家で良いと思う人はいますか」と聞いてみたのです。そのときに出てきた名前が藤倉さんでした。彼の名前は知っていましたが、そこでインターネット上の藤倉さんの曲を聴くうちに、彼のピアノ曲をぜひ弾いてみたいと思ったのです。お会いしたのは数年前、彼の新曲がニューヨークで世界初演される時です。とてもオープンで気さくな方ですよ。話もとても面白いですし。音楽の話をするときはとても集中して話をするのが印象的でした。もちろん藤倉さんもブーレーズ先生をとても尊敬しています。

今回弾く「ジュール」もそんな藤倉さんらしく、とても独創的で面白い曲です。前衛的な所もいっぱいありますし、ジャズのような所もふんだんです。どんなジャンルやカテゴリーにも収まらないというか・・・


木川さんは作曲家・指揮者のブーレーズ氏の作品の演奏をライフワークとしていますね。
彼の印象は?

ブーレーズ ピエール・ブーレーズ

もう随分前になりますが、ブーレーズ先生の第3ソナタをニューヨークで演奏し、そのコンサートについての好意的な批評をニューヨークタイムズから頂きました。その批評記事を読んだブーレーズ先生からオーディションをして下さると連絡をいただいき、パリまでオーディションに出かけました。以来、パリやニューヨークで何回となくお会いし、彼のピアノ曲を演奏する上でのアドヴァイスや、音楽活動上の助言などをいただいています。一般にはとても真面目で厳しい人物のようなイメージがあるようですが、とてもチャーミングで、ユーモアがあり、面白い方です。ただやはり、レッスンやリハーサルのときなど、音楽に対してはとても厳しい方です。特にピアノは彼の楽器なので。

そうそう、面白かったのは、ブーレーズ先生が行った、ストラヴィンスキーの「春の祭典」の指揮講座に立ち会わせていただいた時のこと。終った後にブーレーズ先生に彼の使っているスコアを少しの間貸していただいたのです。すごく細かい書き込みや指示、指揮の仕方が赤や青、緑などの様々な色でしてあったのがとても印象的でした。でも中表紙に「ニューヨーク・フィルハーモニック所蔵」の印章があるのを見つけてしまいました。実は借り物だったんですね!そのことをブーレーズ先生に言うと、チャーミングに笑って「もう時効だよ!」とおっしゃいました(笑)


現代音楽とクラシック音楽との違いは?

僕は現代音楽と、いわゆるクラシック音楽が、なにか別物だと考えたことが無いんです。

ブーレーズ先生の楽曲は現代音楽の中でも頂点と言われるほど難しいと思われることがあるんですが、ドビュッシーやストラヴィンスキー、バルトークやシェーンベルクの延長上に在るんだと思っています。だから、現代音楽が何か突発的にできたものではなく、必ず過去と繋がっているという点で、ショパンやバッハの音楽と変わることはないと思っています。


ブーレーズ氏や藤倉大氏の音楽の魅力は?

彼らの音楽、そして現代に作曲されている多くの音楽にはハ長調やト短調といった、いわゆる「調性」が在りません。ですから、たとえば「宇宙空間に投げ出されたらこんな感覚なんだろうか」と思うことがあります。今まに聴いたことの無いような新鮮な「響き」というか、それが最大の魅力のひとつですね。それと同時に、リズムも本当に自由で楽しいです。予測が全くできないような、驚きの連続の時間(リズム)、それも最大の魅力です。

お客様には堅苦しく考えずに、不思議で楽しい空間を身体で感じて頂きたいと思います。


名曲から最先端の音楽まで聴けるコンサートになりそうですね。
最後に名古屋のお客様にメッセージをお願いします。


名古屋で初めてのソロリサイタルを行えることになり、とても光栄に思います。
プログラムはバッハ、ショパン、ドビュッシーの超有名曲、そして現代の最も先鋭的な作曲家、ブーレーズ先生と藤倉大さんの作品と、「松花堂弁当」のような魅惑のプログラムですが、さきほどお話ししたように、時代順で考えると、たとえばブーレーズはドビュッシー、ショパン、バッハに学び、ドビュッシーはショパン、バッハに学び・・・となっており、「寄せ集め」になってしまわないように考えてみました。

それでいて各楽曲はとても個性的です。
それぞれの曲が持つキャラクターを少しでもお楽しみいただければ嬉しいです!  (了)


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