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弦楽器の弓の製作現場を見学しました!


いつも宗次ホールにご来場頂き有り難うございます。
生の演奏を聴いて感動する・・・その元となっているのは、
何と言っても第1に演奏者の感性と技術によるものですが、
ホールの設備や設計による音響面の工夫、
それに楽器そのものの質によるところも大きいのです。
その中でも今回は、弦楽器を奏でる際に必ず使用する「弓」について
取材に行ってきました。

お話を伺ったのは、ナゴヤドームにほど近い東区矢田に工場を構え、
弓の製作を専門として創業から約120年の歴史を持つ老舗「杉藤楽弓社」さん。
セット DSCN3062


● 部分的に機械化する事で均一な製品を量産できるようにした事。
  その一方で、手作業でなくてはならない部分は大切にその技術を受け継いできた事。
● 機械化すると共に、材質にもこだわり、堅さやしなやかさ等から
  ブラジル産の「ヘルナンブコ材」を採用している事。
● その素材も、品薄となりつつある事。
 (成長がとても遅い木で、絶滅の恐れによりワシントン条約で保護対象になっている。)
● 初めて楽器を触る子供達用の弓から、プロとして活躍する演奏家が欲しい弓と
 製品にバリエーションを持たせている事。
● 一概に「高いから良い」ではなく、楽器との相性、弾き方の癖
 演奏者との相性など色々な要素から、その人にぴったりの弓があるという事。
● 削り出した時に大量に出る削りかすの再利用方法は無いかしら?
 (このおがくず、昔は染料としてつかわれていて水に浸すと真っ赤になるそうです。
  再利用できたらエコにもつながりますね。)

など、など、など、、、 五代目となる社長 杉藤慎子さんから
先代から受け継ぐ製作への精神と、変化に合わせて変えてきた製品への思い
数多くの演奏家さんとの交流などたくさんのお話を伺いました。


その中でも印象的だったのは、ヴァイオリニスト佐藤俊介さんとの出会い

仕上がりの安定化、機械化を進める一方、全く別の性質を持つ弓を作りたい、
そんなことを先代の杉藤浩司さんが考えていた頃……

日本音楽財団からストラディヴァリウスの名器を貸与された、まだ20歳の佐藤さんから
「自分の感性に合った弓で、このストラディヴァリウスを弾いてみたい」
「子供時代使っていた杉藤楽弓社の弓はどうだろう?」
「私のための弓を作ってもらえないだろうか」と依頼を受けたそうです。

この仕事を引き受けた浩司さんは、独自に進めていた研究の成果を注ぎ込み
1本の弓を完成させました。
そしてこれが、佐藤さんの日本デビューCDのレコーディングで使用される事となったのです。
さらにこのCDは、「1つの楽器とは思えない多彩な音色」と
高い評価を受ける事となり、佐藤さんの飛躍への第1歩となりました。
試作の段階で、佐藤さんご本人が来社して、
試し弾きをしながら一緒に作り上げて行ったこの弓は
演奏家の気持ちや表現したい音がダイレクトに伝わる弓。
それが、現在の「センシティブ」シリーズへとつながったそうです。

佐藤さんにとっては、日本デビューを支える弓との出会い。
杉籐楽弓社にとっては、新シリーズをリリースするきっかけに。
お互いに転機となる出来事だったようです。


お話の最後には、小さい頃からヴァイオリンを学び、
製品の仕上がりを左右する「試奏」という重要な役割をされている、
杉藤慎子さんの娘さん(過去、宗次ホールにもご出演されたことがあります)
に弓の弾き比べを聴かせていただきました。

これは個人的な感想ですが、
既存のシリーズは強く華やかな音
「センシティヴシリーズ」は、軽く弾いても音立ちがよく
古楽の演奏を想起させるような響き
がしました。
弓を変えるだけで音色が一変すること
本当に驚かされました。
音色の性格は異なりますが、美しい響きを奏でるという目的は同じ。
演奏家の方はご自分に合った弓を探し求めるものだそうです。


お話のみではなく、製作現場も見学させていただきました。

1階の素材の切り出し場所から2階へ上がると
L字型の工房があり、それぞれの行程のためのデスクが順に並んでいます。
そのひとつひとつのデスクでは、職人さんならではの経験と感覚に基づく作業が
黙々と行われていました。

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切り出した後のまっすぐな木の原型を、弓の形に合わせ反りを出します。
電熱器を使い、少しづつ少しづつ曲げていきます。真夏には、熱さとも戦います。

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磨き作業。
小さな部品も手作業で磨き上げます。

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研磨作業。
台のカバーは、どれほどの数をここで削ってきたかを物語るようなめくれ具合。

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塗装作業。
塗る場所に合わせ、空中に浮かせたままや
机で端だけ固定したりと巧みに仕上げて行きます。

この研磨と塗装は、製品になるまで何度も繰り返し行うそうです。
塗っては削り、塗っては削り。行程順を伺うだけで、気が遠くなりそうです。

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演奏者が直接手にとる部分は、製品によって貼り込む皮の素材や形など様々。
同行したヴィオラを弾く当ホールのスタッフも、その多さや違いに驚いていました。

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弓の曲がり具合などの確認。
1つの行程を経るたびに、何度も確認し、その都度選別されていきます。
そして、最終チェックを終え皆様の手元に届く製品の出来上がり。
製品になるのは、最初に切り出した材料のうち、わずか3割〜4割程度

素晴らしい演奏を聴く楽しみは、楽器製作の手作業の上に成り立っているんだな〜。
と、じわじわ嬉しさがこみ上げてきました。

そして、工房内に並ぶ、年期の入った機材や道具達。

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↑ 受け継がれてきた道具のひとつ。
代々の職人さんによって、少しづつ改良を重ね現在に至るそうです。
かなりの年期が入っていますが、
やはりこの道具がしっくりと手になじみ、使い勝手がとても良いそうです。

そして

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弓幅サイズの小さなカンナ。
(※横にあるライターと比較してもらえると分かりやすいでしょうか?)
弓の製作を専門とするこの工房ならでは道具ですね。

この工房では、職人それぞれが弓一本を最初から最後まで作ることができるそうですが、
個々の得意分野を生かした分業制で、各工程を責任もって仕上げていくそうです。
そこには、お互いの技への信頼があり
各々が仕上がりでそれに応えているそうです。

工房に漂う空気には、何かとても清々しいものを感じました。


おまけ画像
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恐れ多くて、使えないそうですが、
今も工房の一角には、亡くなった先代が使用していた道具がきっちりと並べられていました。


来年1月からは、イエロー・エンジェル設立11周年記念シリーズが始まります。
弦楽器の音色をたっぷり楽しむこの機会に、ぜひ楽器や弓の違いも聴き比べてみて下さい。


(スタッフ/かわしま)


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