♪宗次ホールのコンサートがもっと面白くなる読み物
(アーティスト・インタビュー)♪
一攫千金を狙うようになってしまった現代の芸術。
それでは本物に辿り着けない。
本物とは敢えて、困難の多い高みを目指すということ。
(本人インタビューより)
2011年のチャイコフスキー国際コンクールでは二次予選に進むも落選。
しかしその演奏が素晴らしかった故に、反対にセンセーショナルを引き起こしたエドゥアルド・クンツ。
英国ガーディアン紙を始め、各国の有名紙が
コンクールに蔓延る政治的支配を糾弾するほどの騒ぎとなりました。
今回は「Chopin Society of Atlanta」と「Romania-Insider」からのインタビュー記事をご紹介。
語られる言葉から、彼の芸術性が透けて見えてきます。
文責:宗次ホール企画担当 廣田 政子(ひろた まさこ)
「伝える力」が圧倒的に強い音楽家。
現代のノーミス至上主義は、真に音楽性のある演奏家を除外してしまう
ことが多々あり、本当の意味での「完璧」が、「まずまずの優等生」の敵になってしまうことがよくあるのだ。
(Timothy Gilligan/ニューヨーク・コンサート・レビュー)
エドゥアルド・クンツ (ピアノ)
Eduard Kunz, Piano
1980年、シベリア地方に位置するオムスク生まれ。
グネーシン音楽学校、モスクワ音楽院、その後イギリス王立ノーザン音楽大学にて研鑽を積む。
その詩的かつ円熟した演奏、才能とカリスマ性が認められ、BBCミュージック・マガジンより「明日の偉大なピアニスト10人」に挙げられる。
ジョルジュ・エネスコ国際コンクール、パデレフスキ国際ピアノコンクールなど14の国際コンクールで優勝を果たす。
2011年のチャイコフスキー国際コンクールでは二次予選に進むも落選。
しかしその演奏は一躍センセーショナルを引き起こした。
ロンドン音楽家名誉組合より銀メダル、また服部音楽財団、デイム・マイラ・ヘス、ヤマハ・ヨーロッパ音楽財団、スピヴァコフ財団、ロストロポーヴィチ財団よりリヒテル賞などの多くの賞を授与。
これまでにフィルハーモニア管弦楽団、BBC交響楽団、王立スコティッシュ・ナショナル管弦楽団、バーミンガム市交響楽団、サンクトペテルブルク・フィル、ベルリン・ドイツ響、王立ストックホルム・フィルをはじめ多くの主要オーケストラと共演。
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シベリア地方のオムスク州に住んでいた、10歳のエドゥアルド少年に母は言います「パンを買いに行ってきてくれる?」その当時彼の故郷で《おつかい》とは、バス停まで徒歩20分、バスで片道45分という往復2時間かかるもの。
その距離を苦しいと感じたこともないし、それが生活だった、と話すクンツさん・・・
ソ連時代、もちろん物質的には豊かではありませんでした。
しかし驚かれるかもしれませんが、生活は満たされていました。
二軒に一軒の家は必要な家具のようにピアノを持っていました。
私はピアノを少し弾くことが出来た祖母から、教わりはじめました。
私が小さい頃に母は離婚し、人生の全てを僕の教育のために捧ぐことを早くに決めていたようです。
ですが母は音楽家ではなかったので、どうやって成功を導けば良いのかわからなかった。
そこで色々とコンクールへと連れ出されるようになりました。
方法はわからなくても、「信じていれば必ず道は開ける。」
母は、そう考えている人でした。
その後、国際コンクールで入賞したことをきっかけに、お母さんとモスクワに引っ越したのですね?
あのときの母はチャレンジャーでした!
オムスクからモスクワは3000キロ、電車でなんと44時間の旅でした。
そして、モスクワで住む所さえ見つかっていなかったのに引っ越しを決めたんですよ!
母の勇気をたたえます。
それから数々のコンクールで賞を獲得。
2011年に受けたチャイコフスキー国際コンクールで落選しましたが、その結果に反対した聴衆やメディアが審査員を大きく非難するというセンセーションに。
もう、100年くらい昔の出来事のように感じます…勿論、落胆しました。
ですが同時に、元々多くは期待していませんでした。
ただ、人前で演奏する場が欲しかったというのがそもそもの参加の理由でしたから。
私にとって、コンクールに参戦するくらいしか、人前で演奏するチャンスはなかったのです。
人生で今まで15のコンクールで弾いてきて、(うち14で賞を獲得)賞を獲ったからといってキャリアが確約されるわけではないことは、もう痛い程わかっていましたから。
しかし、チャイコフスキー国際コンクールで、聴衆はあなたに熱狂した。
そうですね、聴衆の皆様の反応には、私自身も圧倒されました。
Eメールは500通、フェイスブックのメッセージも数百、受け取りました。
信じられないことでした。
審査員と聴衆の判断が、なぜにこれ程異なるのでしょうか?
審査員は限られた日数の中で30人かそれ以上の数の演奏を聴かされます。
良い演奏を聴き逃してしまうこともあるでしょう…いずれにしても、私の人生に於いて、既に過去のことです。
今は人前で演奏が出来るチャンスを頂けたことに感謝していますし、自分のツアーに集中するのみです。
演奏を通じて、一番伝えたいメッセージは?
ここ10年程で、音楽の世界も随分変わりました。
個人的には『創造のゴミ』と呼んでいます。
何かを創りあげることに、莫大な費用がかけられる時代です。
例えばハリウッド映画なんかで、特殊効果やCGに膨大なお金がかけられる。
そのくせ画面に現れるのは僅か2分間。
そしてその2分間は観終わった後、観客の記憶にすら残らないものばかり。
皆、大ヒットを打って一発で大儲けすることばかりを考えているようです。
これでは本物から離れていくばかり。
クンツさんにとっての『本物』とは?
本物とは、敢えて困難な道を選ぶということです。
演奏家は、スターになりたい、と常にプレッシャーにさらされています。
でもそのやり方では自らを見失ってしまう。
トルストイも言っています『船を漕いで対岸に渡ろうとするならば、まずは川上を目指せ。さもなければ川の流れに飲まれて一気に下流に流されてしまうだろう。上を目指さずして、目標の岸には辿り着けない』と。
本を売るよりビールを売り歩いた方がお金になる時代です。
バッハを弾くよりも、YouTubeでおかしな動画を流して話題になるほうが、お金になる。
そんな時代だからこそ、そう信じています。
演奏家として活動をしていく上で、大変なことは?
演奏活動を続けられることはかけがえのないことです。
しかし今1シーズンにつき60コンサート程をかかえていますが、それはつまり1年の内丸3~4か月は家に居られないということ。
家族と、そして子供と時間を過ごせないということです。
モスクワの後にもケンブリッジ(イギリス)、そしてブカレスト(ルーマニア、奥様の実家)と引っ越しを繰り返してきた私の人生は、いわば「移民生活」でした。いつも孤独だった。
周りは常に違う言語を話していた。
でも、一か所にずっと居られることが良いのかどうかも、わかりません。
孤独との闘いでもある、音楽家としての人生。音楽に、人生を呑みこまれてしまう…と感じたことはありませんか?
もちろん、ありますよ。
でもステージの上では自分の感情をコントロールするのです。
私はこのやり方で20年以上演奏家としてやってきましたし、それがプロフェッショナルというものだと思っています。
自分の存在の意味、自分のことば。
全てに於いて自分を受け入れていなければ、表現したいことを伝えきることはできません。
感情はもちろん大切です。
しかしそれを最大限表現するためには、的確に練り上げ、組み立てることが必要。
例えば腕の立つ料理人は、その料理に舌鼓を打たせつつも、どんな下ごしらえをしたかは、決して悟らせない。
全ては完璧なタイミングと訓練、そしてタマネギなんかの食材です(笑)
生演奏の素晴らしさとは?
リハーサルでは決して得ることのできないことが、生のコンサートでは存在します。
舞台とピアノが在るだけではなく、そこには聴衆が居てくれて、その存在は演奏者と楽器の存在と同じだけ、重要なのです。
だから、私はスタジオ録音が嫌いなのです!
聴衆に囲まれて演奏をするとき、そこにはたくさんの人達の生きた呼吸が聴こえる。
その息遣い、反応は、決して嘘をつかない。
同じ場所で2回公演をしても、聴衆が変わればそれはまた違う街で弾くのと同じだけ、変わるものです。
【参照】
“Exclusive Interview with Eduard Kunz”:
Chopin Society of Atlanta
“Eduard Kunz – Just another Russian space conqueror?”:
Romania-Insider.com
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音楽の素晴らしい点? それは簡単。
過去の偉大な音楽家たちも全て、たった一つのことを表現する為に追究していたんだよ。
それは「愛」。
絵画、音楽…人間が創りだした全ての芸術に於いての唯一のテーマが愛。
それ以外にはないよ。
(エドゥアルド・クンツ)
エドゥアルド・クンツ ピアノリサイタル
【プログラム】
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻より
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第14番 「月光」
<休憩>
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第21番 「ワルトシュタイン」
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10月14日(土)
18:00 開演(17:30開場)
一般¥3,500/学生¥2,100
全指定席
[チャリティーシート¥3,850/ハーフ60 ¥2,100]
ご予約は宗次ホールチケットセンターへ
☎052-265-1718(10:00~16:00 ※一部例外有)
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